東京・大阪のイベントで販売した「封筒小説」の完売に伴い、WEB掲載します。
本編とは全く関係がありませんので、箸休め的にご覧ください。
現地でお手に取ってくださった皆さま、ありがとうございました。
■やさしくしないよ
■桔梗 唯 × 小林 イツキ
■R-18
俺の部屋に、酔っ払った桔梗さんの歌声が静かに響く。俺は惨めったらしくも四つん這いになって、それを聞いていた。
「いっぽんでーも、にんじんー」
「ふ、うう」
「二足でーも、サンダルゥ」
「き、ききょう、さん」
「さんそうでーも、ヨットー」
俺の声が聞こえているのかいないのか、桔梗さんは持ち前の飄々としたご様子で歌っていた。その歌って、そんな歌詞なんだ。ニンジンまでしか知らなかった。
突き上げた腰が、無意識に揺れる。俺のそこには、あろうことか桔梗さんの指が一本、二本、と挿入されていた。それが三本目。ひときわ大きな声が喉の奥から漏れた。
「イツキくん、どう?」
問いながら、桔梗さんは指を更に押し込む。さらにはグリグリと、中を掻き回すように。どうって、羞恥を通り越して絶望すら覚える。でも身体は熱い。酔っ払った桔梗さんが家に押し入ってくるなり、面白半分で「結婚式の二次会でもらったんだけど本当に効くのかなあ」と言って俺に無理矢理飲ませた錠剤が原因だった。
なにを飲ませたのかを問い詰めると、あっけらかんと「媚薬」なんて口にするから、この人は本当に頭がおかしいんじゃないかと思った。まともに社会人をしていること自体が奇跡だ。
「どうなの、イツキくん。きもちいーの?」
「あっ、や。ぐりぐり、しないで。お願い、抜いて」
「そんなことは聞いてないよ。気持ち良いかどうかを、俺は知りたいの」
桔梗さんの声色が一気に冷たくなる。怒っているというよりは、拗ねた子どもみたいだ。
「ん。きもち、いい、です……」
「ふふ。なに、イツキくん。ご主人様以外の指でも感じちゃうんだ、悪い子だね」
嬉しそうに彼は吐き捨てた。こんなところを佐倉に見つかったら、きっと殺される。
「もう一本入れていい?」
「えっ、やっ。だめだめ、絶対だめ」
「四本入っちゃうとか燃えるね」
弾む声に血の気が引く。こっそり窺う桔梗さんの表情は、まるで夏休み直前の子どもみたいに輝いていた。楽しいものを見つけた、あどけない表情。
ぐっと、穴の辺りが広げられそうな感覚。俺は血の気が引いた。
「やだ、やだよ、もう……」
「ええー。しょうがないなあ」
ずるり。一気に指が引き抜かれた。びくびくびくっと身体が思い切り痙攣して、こんなこともうやめたいのに薬の作用が増幅する。起き上がれない。嬌声が止まらない。それを見た彼はくすくすと笑っていた。
「媚薬って本当に効くんだね。AVの中だけかと思ってた。せっかくだし、痛くない内に最後までしちゃう?」
艶を帯びた笑顔を向けられ、恐怖は加速する。俺は必死になって頭を振った。すると押し殺すような笑いと、震える「冗談だよ」の声が降ってくる。頭を雑に撫でられ、俺は全身の力が抜けていくのを感じた。
「でもそのままじゃ辛いよね。どうする?」
桔梗さんが意地悪く笑いながら問う。わかっていて聞いてくる彼は、とんでもなくずるいと思う。
「いかせて、ください」
「うん、いいよ」
仰向けになった俺に、桔梗さんがゆっくりと覆い被さる。瞼に優しいキスをされた。こういうのは本当にやめてほしい。従順を錯覚する。
桔梗さんの手が、俺の股間の前に添えられる。だらしなく口を開き、止まらない嬌声を上げた。
「だいじょうぶだよ。創介には言わないから。薬盛ったのも俺だし、イツキくんはなにも後悔しなくていいからね。だいじょうぶ」
桔梗さんの身体に両手両足でしがみつき、白くぼやける阿呆になった頭で言葉を吐き出す。
「でもさ、このままじゃ俺だってつらいままだから。ね、イツキくん。終わったら次は俺の番ね」
のぼってのぼって、あとは落ちるだけ。
だからこの人は、恐ろしいんだ。